BMW vs アウディのレーザーバトル!

世界初のレーザーヘッドライトを搭載したアウディR8‐LMX

 

 古くから前照灯の開発では世界初を目指す競争が繰り広げられてきました。HID前照灯は1992年にBMW7シリーズ、LED前照灯は2007年にレクサスLS600hが初搭載し、翌2008年にアウディが全機能をLED化したフルLED前照灯をR8に搭載します

 2011年にVWが世界初のADB(配光可変ハイビーム)をトアレグに搭載後、注目を集めたのが ”レーザー” を用いたレーザー前照灯です。当時LEDの一般認知度は低く、東日本大震災の計画停電でようやく認知度が上がったのに対し、レーザーは小学生でも知っているほど幅広く認知されていたので、話題性とブランド力の向上を期待できました

 様々な企業が開発に凌ぎを削る中、特に激しく競い合ったのがBMWとアウディの2社です。当時「Laser Battle」と呼ばれた2社の競争を中心に、レーザー前照灯の開発を時系列で振り返ります

 2010年頃から一部の光源メーカーや前照灯メーカーが、レーザー前照灯の基礎研究をスタートします。レーザーは指向性が強くLEDより強い光を照射できます

 レーザのみで白色光を生成することは容易では無く、実際はLEDと同様に青色(青レーザー)と黄色蛍光体を組み合わせて白色光を生成します。具体的には青レーザーを蛍光体に照射し、蛍光体は青レーザーの一部を黄色光に変換し、青レーザーと黄色光を丁度良い比率で混ぜることで白色光を生成します

Source ; Osram GmbH

白色レーザー・基本構成

 青レーザーと黄色蛍光体の組み合わせは、LEDに対して数倍~十数倍の高輝度光を生み、遠方を明るく照らすことや光学ユニットの小型化を可能にします

 一方で前照灯光源として急速に性能向上が進んだLEDに対し、光量や耐久性確保等が発展途上にあるレーザーの実用化には10年以上掛かると思われました。その矢先にBMWがレーザー前照灯のコンセプトモックを公開し、3年後の2014年に実用化すると発表します

2011/9/1 BMW develops laser light for the car.

 Source ; MotorTrend
https://www.motortrend.com/news/bmw-shows-us-how-its-laser-headlights-and-dynamic-lightspot-work-126103/

BMWの白色レーザー発光原理サンプル
各ユニットで3本の青レーザを左上蛍光体に照射して白色光を生成

 この時、開発者の多くはLED前照灯に注力していた為、BMWの発表に驚く一方で実現性に懐疑的な見方が少なくありませんでした

 BMW発表の翌月、日本の家電大手シャープが前照灯用の白色レーザー光源の論文を発表します。具体的な実験で白色レーザーの輝度を示した初の論文です

Source ; SHARP ISAL2011

前照灯用レーザー光源とリフレクタ

 シャープは翌年に公開技報を出し特許を多数出願しますが、それ以外の情報はありません

 アウディはSAE(米国自動車技術者協会)シンポジウムで、レーザー光源の前照灯応用についてDRLやターンシグナル、歩行者スポット照射などの可能性を示します

 アウディは2000年代半ばからレーザーのライティング応用の研究を開始し、赤レーザーをリアフォグに応用したコンセプトを公開していますが、SAEで初めて白色レーザーに言及しました

Source ; AUDI 2007 ISAL

アウディ、レーザーリアフォグ・コンセプト

 スタンレー電気は、慶応大学 EVベンチャー・シムドライブ社の公道実験車”シムセル”に、LEDとレーザーのハイブリッド式ロービームを搭載します

Source ; Stanley Electric https://saiyo-stanley.com/project/03.html
Source ; Monoist

 シムセルは国交省大臣が特別認定した実験車です。公道走行可能なナンバー付き車両に搭載されたレーザー前照灯としては世界初になります

 ダイムラーは上海モーターショーでレーザービームプロジェクタを搭載した ”GLAコンセプト” を発表します。前方スクリーンに映画を投影する用途ですが、ベンツがレーザー前照灯の開発に乗り出す可能性が話題になりました

Source ; Openers  https://openers.jp/car/car_motor-show/17504 
Source ; Openers  https://openers.jp/car/car_motor-show/17504

レーザープロジェクタ前照灯・コンセプト

 BMWはフランクフルトモーターショーでBMW i8を公開し、2014年秋のレーザーハイビーム搭載を発表します

Source ; BimmerToday
https://www.bimmertoday.de/2013/12/19/bmw-laser-licht-scheinwerfer-i8-video-voll-led-hybrid/

BMW i8 レーザー前照灯

 2011年コンセプト発表から2年間、BMWからレーザー前照灯のプレスリリースが途絶えていましたが、具体的な車種と搭載時期を公表したことで、自動車メディアは「BMWがレーザー前照灯を世界で初めて実用化する」と報じました

 アウディはCESでレーザーハイビームを搭載したSports-Quattroコンセプトを展示し、夏までにレーザーハイビームを99台限定スポーツカー ”R8-LMX” に搭載すると発表します

Source ; Audi MediaCenter

CESのAudi Sports-Quattroコンセプト、4眼レーザーハイビーム

 BMW発表の2014年秋より早い為、自動車メディアは「レーザー前照灯はアウディが勝利する」と報じました

2014/1/7 BMW, Audi will introduce laser headlamps this year
2014/2/17 Audi Starts Laser Fight With BMW By End of Year

 BMWは3月10日、i8の生産計画を秋から4月に変更し、6月に顧客への納車を開始すると発表します。これを受けてメディアは「BMWが勝利した」と報じます

2014/3/5 Automakers Eye Laser Lights To Let Drivers See Farther At Night
2014/4/1 BMW’s new i8 is the first production car with laser headlights

 しかしこの直後、BMWはi8の納車時期を8月に延期すると発表し、アウディとの世界初を巡るレースは混沌となります

 夏の納車開始を予告していたアウディですが、R8ーLMXの正式発表の場で納車時期を6月~7月へ前倒しすると発表します

2014/5/9 The Audi R8 LMX – world’s first production car with laser high beams

 この時、アウディは初めて「世界初のレーザーハイビーム搭載」を自ら宣言します。メディアも「レーザー前照灯の戦いはアウディが勝利」と報じました

2014/5/10 Audi wins laser light race
2014/5/10 アウディR8LMX、世界初のレーザー・ハイビームを装備

 BMWは6月5日、ミュンヘンのBMW博物館でレーザーハイビームを搭載したi8の納車セレモニーを開催します。会場には特別に選ばれた顧客8名とテレビの有名司会者や著名人、メディア関係者が招待され、メディアは「BMWがアウディとの戦いに勝利!」と報道しました

Source ; BMW

BMW博物館内のセレモニー会場と8台のBMW i8

2014/6/5 BMW Beats Audi to Production Laser Headlamps, World Keeps Turning
2014/6/7 World’s First BMW i8 Owners Take Delivery In Germany

 BMWの勝利宣言後、アウディはレーザーハイビーム搭載車の納車を開始します。5月に宣言した納車開始時期6月~7月に対し、実際の納車開始時期は10月にずれ込みました

2014/10/7 世界99台限定のアウディ R8 LMX、6台を日本導入

 アウディは「BMWはオプション装備である。我々のレーザーハイビームは標準装備であり、真の量産車向け製品だ」とコメントします

 レーザーバトルを制したBMWですが、2014年6月の納車セレモニーの後、一般のi8購入者がレーザーハイビームを購入できない状態が続きます。デリバリートラブルは1年以上続き、誰もが購入できるようになったのは2016年以降です

BMW i8にLED前照灯に比べ2倍もの照射距離を実現した次世代ライト技術「BMW レーザーライ」を導入

 BMWは本当にレーザーハイビームの開発を終えていたのかという疑問が湧きます。レーザーハイビーム搭載車8台はBMWが選んだ8名に納車され、レーザーハイビームは無償で提供されました。不特定多数に広く販売したとは言えません

 一方、アウディは限定99台ながらレーザーハイビームを搭載した約3,000万円の高級スポーツカーをディーラーで店頭販売し、誰もがお金を払えば購入可能な状態にありました。2015年末には新型R8にレーザーハイビームを搭載して販売を開始していたことから、2014年10月に開発を完了させていたと言えそうです

 2024年4月のネット検索では「世界初はアウディ」とする記事が8割以上を占めます。バトルから10年を経て、世界はアウディを勝者として認めつつあるようです 

 新技術で世界初が認められれば開発力を誇示することが出来ますし、歴史的意義が認められれば自社ブランドの価高い上につながります。注目度の高い技術であれば一番乗りに血眼になるのは当然で、そういった点でBWMとアウディの先陣争いは見どころがありました

 最近はヘッドライトに関する大きな話題が少なくなりました。レーザーが期待していたような性能向上や価格低下が実現しなかったことで当面はLED光源が主流のようです。次の新光源が見えてくると面白くなりそうですが、論文ベースでは幾つか仕込みが行われているようですので、いつ芽を出すか楽しみに見守ります

タイトルとURLをコピーしました