市光工業は2002年10月21日、後付けの昼間走行ランプキット「LED DAYTIME LAMP」をVERIASブランドから発売しました。このランプの斬新なアイデアを紹介します
VERIAS 「LED DAYTIME LAMP」とは
デイタイムランプとは昼間の安全性を高めるために車両フロントに装着するランプで、他の車両や歩行者からの被視認性を向上させる効果があります。法規上は ”その他の灯火”に該当し灯光色は赤色以外、光度は300cd以下に規制されています
本商品はLEDの明るさを50Hz以上で変動させ、人間の目に見えるギリギリの周波数で光を変動させることでLED本来の明るさを超える ”明るさ感” を実現するアイデアが盛り込まれています。この光の変動は ”スーパーフリッカー” と名付けられています
参考: レスポンス 市光工業、省エネタイプのランプキットを発売
レスポンス 昼間点灯用のLEDランプを発売—市光工業

スーパーフリッカーによる明るさ感の増加
”スーパーフリッカー” を生成する電源制御技術が ”GEE” です。数10Hzの速さで光度を一定幅で変動し、微妙なチラつきにより明るさ感を増加させます。

GEE:光度を一定幅で変調
視覚特性の学術分野では複数の大学や研究機関がCFF(知覚可能な明滅周波数閾値)付近の点滅光を研究し、時間平均した連続点灯光に対して心理的な明るさ感が増加すると報告しています。増加幅は論文により異なりますが1.1倍~1.4倍程度です
研究に用いられた点滅光は光度が0%と100%を行き来する矩形波変調で、光の変動条件がGEEとは異なる為、研究結果を単純に引用できませんが、CFF付近の光度変動が心理的な明るさ感を増加させる効果はありそうです
その他の灯火・法規適合性
本商品は他のデイタイムランプとは明らかに見た目が異なり、実際の道路上でも装着車輌の被視認性が向上していたように思います。一方で微妙とはいえ光度変動を感じられた為、光度変化を禁じる保安基準への抵触が気になりました
発売前に然るべき公的機関から ”問題なし” とお墨付きを得ていたと思いますが、その後に他社から販売されたデイタイムランプの後付けキットにはスーパーフリッカー方式は採用されていません。特許で他社が参入できなかった側面もあるかも知れませんが、2016年法改正で昼間走行灯が正式に法制化された後は市光工業もスーパーフリッカー方式の販売を取り止めています。現在の判断基準では許可が下りないのだろうと推測します
開発元はMIC WORKS社
ネット情報や特許等を調べると、GEEユニットは神奈川県のMIC WORKS社(以下 MIC社)が開発し、灯具も併せて市光工業にOEM供給していたようです。ランプキットの電源回路部を拡大すると ”MIC”、”GEE”、”PAT” 等の文字を確認できます

LED デイタイムランプ タイプ5 12V青 Source ; Amazon.co.jp

左: タイプⅠ VDT11-12WKI 右:タイプⅢX VDT13-12WKI
MIC社は「LED DAYTIME LAMP」を自社ブランドでも販売していたようですが、
GEEユニットの発明者
GEEユニットの特許を調べると、MIC社が1999年に出願した特許3080620が基本特許、発明者は”松原 勝” 氏でMIC社の創業者です。MIC社によれば松原氏は1914年生まれ、1968年(54歳)にMIC社を創業、1999年(85歳)にGEE特許を出願、2002年(88歳)にLED DAYTIME LAMPを販売開始し、2020年(106歳)に逝去されています
松原氏がGEE特許を出願した1999年は、HIDの採用がようやく本格化し始めた頃です。当時LEDの可能性は話題になっていましたが、実現性は目処が立っておらず、将来性については懐疑的な見方が大半と言うような状況でした。そのような時期に一早くLEDの高速応答性に着目し、スーパーフリッカーによる明るさ感の向上というアイデアを創出し、特許出願された方が80代半ばだった、という事実には驚かされました
まとめ
歴史や特許を調べると先達の活躍や苦労が見えてくることがあります。伊能忠敬55歳からの地図作りや、カーネルサンダース65歳の創業など高齢者の奮闘記は多々ありますが、松原氏の活躍もその中の一つではないでしょうか
世の中には不完全燃焼なシニアエンジニアの方々が多数おられると思いますが、年齢を理由に可能性を諦めるのでは無く、松原氏のように年齢に関係なく活躍できるという実例を参考に、”もう一花咲かす時間はまだ充分ある” と前向きに考えていただきたいと思います