2023年11月28日のベストカーWEBでリトラクタブルライト特集を読みました。
ロードスターやトレノ、RX7のリトラクタブルは街中で見かけたことがありますが、それ以前のクルマや、海外のリトラクタブルはこの記事で初めて知りました。
目を引いたのが1960年代後半のオペルGT。Youtubeで動画検索すると、ライトがクルマの前後方向を軸に、まるで忍者屋敷の回転扉のように現れます。運転席のレバーを引き、ワイヤーかリンク機構で動かすようです。
オペルGTに限らず、色々な種類のリトラクタブルが有り、ライトの出現方法はそれぞれ個性にあふれていますね。
リトラクタブルライトの動画
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昔のクルマがリトラを採用した理由は、最低地上高をクリアする為と言われます。実際にトヨタ2000GTのリトラは北米法規の最低地上高クリアの為だったようです。
下のミウラやポルシェはライトの傾きだけが変わり、最低地上高は変わっていないように見えます。最低地上高が問題では無いとしたら、ライトを寝かせた状態で光が前に出るようにライトを設計すれば良いように思いますが、それをしない理由は何でしょうか?
![リトラクタブルライトの作動前と作動後の比較写真。上がランボルギーニミウラ、下がポルシェ](https://glarefreevision.net/wp-content/uploads/2024/01/Pop_up_headlights.png)
左側 : 収納時 右側
実は、昔のライトは後傾しているとロービーム配光をうまく作れないのです。光源から出た光はリフレクタで反射して、正面方向に進む平行光になります。そして、カバーガラス表面に刻まれたプリズムで左右方向に拡散されます。
この時にカバーガラスが後傾していると、光線を正面方向に出すことは問題ありませんが、左右方向に水平に拡散させることが出来なくなります。具体的には、光線を左右方向に真っすぐ広げようとしても拡散パターンの両端が垂れ下がり、バナナのように湾曲してしまうのです。
湾曲が少なければそれほど問題はありませんが、湾曲が大きいと交差点やカーブで進行方向を照らせなくなり、安心して走行することが出来なくなります。
下はライトの傾きと水平拡散パターンの湾曲をイメージしました。正面方向に限れば光線の角度に差はありませんが、拡散パターン両端の高さに大きな差異が生じます。
![昔のライトが垂直にクルマに搭載されていた理由を配光で説明。斜めに搭載すると左右方向の光が下向きになる](https://glarefreevision.net/wp-content/uploads/2024/02/6e2599eae129ffd097e9b43f230ab933.png)
左側 : レンズ面垂直、照射パターン水平 右側 : レンズ面傾斜、照射パターン湾曲
1980年代後半になると、プロジェクタユニットが開発されます。ユニット単体でロービーム配光が完成しているので、カバーガラスのプリズムが不要になり、カバーガラスが幾ら後傾しても問題は無くなりました。
リトラブルライトの必要性が急速に薄れていく中で、スポーツカーを彷彿とさせるスタイリング要素は残ります。AE86、ロードスター、FD、80スープラ、180SXは魅力的なスポーツカーでしたね。
とはいえ時代の要請で歩行者保護の規制強化により、不要な突起と化すリトラクタブルライトは姿を消すことになります。
近年ではリトラクタブルライトを街中で見かけなくなる一方、ライト内部で光学ユニットなどをリトラクタブルさせるクルマが出てきたようです。ネット上でしか確認できていませんが、少しまとめてみました。
CITROEN DS7
Citroen DS7は、3つの光学モジュールが各々独立して垂直軸で回転し、ライトの集光と拡散を調整したり、カーブの進行方向を自動で向くように制御します。
イグニッションOFFで、3つの光学モジュールが180°回転して背中を向ける様子が面白いですね。
Youtube動画 DS「DS 7 クロスバック」ウェルカムヘッドライト
VOLVO EX90
EX90は、昼間はランプ中央を横切るデイタイミングライトが発光し、特徴的な”トールハンマーデザイン” を形成します。夜になるとデイタイミングライトが移動して、奥にあるハイビームやロービームユニットが点灯します。
![VOLVO EX90のヘッドライトでトールハンマーデザインと呼ばれる。](https://glarefreevision.net/wp-content/uploads/2024/02/Volvo_Thors_Hammer_from_Logom.png)
トールハンマーLEDヘッドライト
一般的に多くのカーメーカーは、デイタイムランニングライトの発光形状でブランドを表現することが多いのですが、夜はハイビームやロービームの発光部が追加されてしまう為、昼の発光形状と夜の発光形状が異なってしまうことが問題でした。
EX90はライト内部でデイタイミングライトを動かすことで、夜も昼も同じトールハンマーデザインを実現しました。彼らは特別にこれを アルティメットハンマー と呼んでいます。
Youtube動画 The Volvo EX90: Hej there 😉
広州汽車 GS8
広州汽車GACブランドのフラッグシップSUVであり、ランプ内部に特徴的なリトラクタブル機構を有しています。機能上の役割は公表されていませんが、外見と動きでクルマの先進性をアピールしています。
Youtube動画 The Lighting Signature of the All-New GAC GS8
最後になりますが、リトラクタブルライトはコストが掛かるほかに機構部品の耐久性確保も必要になります。それでも採用に踏み切ったカーメーカーは、意図するスタイリング実現に向けて決意を持って臨まれたということが分かります。
リトラクタブルライトは歩行者保護をクリアできずに姿を消した訳ですが、技術革新で歩行者保護が可能になる、もしくは不要になれば、再びリトラクタブルライトを街中で見かけることができるようになるかも知れませんね。
余談
リトラクタブルライトに限らず格納式ドアミラーやスライド式メータ、電動ハードトップなどのメカ系パーツは人目を引き、何故かワクワクしますよね。
昔の自転車にもリトラクタブルライトがあり、自分も「これ格好いい、欲しい!」と熱望したことを思い出しました。お値段も高く実際に親に購入してもらった友達は裕福な家庭だったと記憶しています。
![](https://glarefreevision.net/wp-content/uploads/2024/01/Retractive_light_Bycicle1.jpg)
自転車のリトラクタブルライト
![](https://glarefreevision.net/wp-content/uploads/2024/01/Retractive_light_bycicle2-1024x768.jpg)
リトラクタブルライト