2010年代、総合電機メーカーによるヘッドライト開発は今どうなっているのか

ライト業界

 2010年代に入りEVや自動運転等、次世代モビリティ開発が本格化します。日本の総合電機メーカーはモビリティ変革を好機と捉え、パナソニックがEVバッテリー事業に巨額投資をしたことは皆さんもご存知と思います。

 ヘッドライトの世界でもLED化が進み、配光可変ハイビームやレーザーヘッドライトへの期待が高まっていた時期であり、一部の総合電機メーカーがヘッドライト開発に乗り出す動きが見られました。非自動車関連企業による2010年以降の前照灯光学関連の国内特許出願件数はシャープ、パナソニック、三菱電機の3社が突出していた為、3社の動きをまとめてみました。

 非自動車関連企業の国内特許出願件数(F21S41/00、2010年1月1日以降公開)
 ・シャープ    184件
 ・パナソニック  180件
 ・三菱電機     85件
 ・コニカミノルタ  12件
 ・富士フィルム   10件
 ・リコー       7件
 ・京セラ       6件
 ・キャノン      3件
 ・ソニー       2件
 ・オムロン      2件

 2010年1月まで ”目の付けどころがシャープでしょ” をスローガンとしていたシャープは、その言葉通り照明用白色光源としての ”白色レーザー” の可能性に目を付け、2011年10月にレーザーヘッドライト光学モジュールの論文を発表します。発光原理はLEDと同じく色光の一部を黄色光に変換する蛍光体を使用し、青色レーザー光と黄色光を混ぜて輝度の高い白色光を生成します。

 光学モジュール : 左上から青レーザー照射、右下蛍光体で白色光へ変換 Source ; ISAL2011

 当時、レーザーは耐熱や目に対する安全確保など課題が多く、ライト応用は困難と考えられていました。唯一アウディがレーザーリアフォグを検討していましたが未だ実現していません。白色レーザーは更に先の技術と考えられていた為、シャープ論文は先駆的でした。

2007年 アウディ レーザーリアフォグ・コンセプト     Source ; Audi

 シャープ論文の1ヵ月前、2011年9月にBMWがレーザーヘッドライト構想を発表します。この時BMWが提示したのは ”発光原理サンプル” でした。シャープ論文では原理試作モジュールの性能評価まで行っていたので、シャープの検討はBMWより先行していたように思います。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

2011年9月 BMWレーザーヘッドライト・モジュール   Source ; BMW 

 ・2009年  12月、レーザーヘッドライト特許出願
 ・2010年  10月、レーザーヘッドライト等の商標出願
 ・2011年  10月、ドイツISALで論文発表        
 ・2012年  9月、 シャープ公開技報 通巻104号 「レーザーヘッドライト

 シャープは2012年の公開技報を最後に、レーザーヘッドライトに関する情報発信がありません。特許出願は現在も継続し、レーザーヘッドライトに特化した計200件近い特許が出願されています。 

 LEDヘッドライトが登場するまで、ヘッドライトで最も難しい電装パーツといえばHID点灯装置でした。点灯する瞬間に約2万ボルトの高電圧をHIDバルブに投入し、光度が安定するに従い電圧を下げていきます。パッシング等の繰り返し点灯を行う時は、消灯時間からHIDバルブの温度や沃化物の揮発状態を推定し、電圧を調整するような複雑な制御を行います。その為、ライトメーカー単独では開発が進まず、技術力のあるパナソニック(松下電器)、三菱電機、デンソー等の大企業が開発パートナーとして事業参入します。

松下電器製、市光工業HIDバラスト   Source ; Amazon

 2010年以降になるとHIDからLEDへの移行が進み、デンソーはHID点灯装置から撤退、パナソニックや三菱電機はLED点灯装置にシフトすると共にヘッドライト本体の開発にも着手します。 パナソニックは2013年の新中期計画で津賀社長がLEDヘッドライトに言及し、開発を本格化させています。

 ・1997年  HID点灯装置事業をスタート
 ・2000年代 白色LED、レーザー開発で、車載ランプ光源への応用目指す
 ・2013年  3月28日新中期計画2013年事業方針で、LEDヘッドライトに言及
 ・2013年  7月以降、エコソリューションズ社がLEDヘッドライト開発で求人を開始
 ・2014年  8月、自動車照明を拡大、ヘッドライト用LEDと点灯回路一体化をOEM提案
 ・2014年  11月、ドイツ・エレクトロニカ展で、試作LEDヘッドライトを展示
 ・2015年  8月、LEDヘッドライト事業参入を表明、平成30年の売上目標250億円
 ・2015年  9月、ヘッドライト用レーザー開発を表明
 ・2016年  5月、中国松下が常州星宇と5年間の技術提携。センサーや電子回路技術を供与
 ・2016年  6月、LEDライトモジュールと基板の接続用コネクタ2種を開発
 ・2016年  12月、ZKW買収交渉の報道 ( 2018年4月 LG電子がZKWを買収
 ・2018年  6月、LEDヘッドライト事業は単独展開の報道
 ・2023年  3月、自動運転の未来を照らす次世代照明「IR投光器」をHP公開
 ・2023年  11月、オートモーティブシステムズ社がアポロ社とのパートナーシップ表明

試作LEDヘッドライト、2014 Electronika   Source ; LEDinside

 当初はエコソリューションズ社からヘッドライト開発の求人広告が出ました。「 ”見るため” のヘッドライトではなく ”魅せる” ヘッドライト、各種通信技術やセンサーを用いた新たな技術の創出」を掲げ、既存ライトメーカーからの転職が相当数あったようです。2016年に中国の常州星宇車灯と5年間の技術提携を締結後、ZKW買収交渉が大きく報道されて注目を集めますが、ZKWは2018年に韓国LG電子に買収され、パナソニックは単独で事業参入する方針を表明します。その後は情報があまり出てこなくなり、現時点でパナソニックがLEDヘッドライト事業に参入できたとの情報は確認できていません。

 2023年11月にオートモーティブシステムズ社の株式売却が報道されると「自動車事業の切り離しか?」と話題になりました。現在のLEDヘッドライト開発の求人元は、エレクトリックワークス社ライティング事業部となっているので直接は関係しないと思われます。

 尚、同事業部の成果として、サイドミラー内蔵IR投光器の開発事例がパナソニックHPで閲覧できます。光学設計は元スタンレー電気の方が担当されています。

トヨタ アクア サイドミラー内蔵IR投光器      Source ; Panasonic

 三菱電機は1990年代からHID点灯ユニットに参入し、光源がLEDに置き換わった現在もLED点灯ユニットで大きなシェアを占めています。これら点灯ユニットは兵庫県の三菱電機三田製作所で製造されています。

 2018年に三菱電機・先端総合技術研究所がLEDヘッドライト開発を表明します。2015年に三菱電機デザイン研究所が自動車向け路面ライティング・コンセプトを発表していますが、関連性は分かりません。2021年コンセプトカー「EMIRAI xs Drive」では幼児置き去り警告に路面ライティングが活用されているので、2つの開発が統合されたカタチになっています。以下、ネット情報をまとめました。

 ・2015年  10月、自動車向け「路面ライティング」コンセプトを提案
 ・2017年  10月、自動車の挙動、照明で注意喚起。2020年実用化目指すとの報道
 ・2018年   6月、超小型・高機能な「LEDヘッドライト用光学モジュール」開発表明
 ・2020年  12月、スタンレー電気との車載用ランプシステムに関する業務提携を発表
 ・2021年  11月、パテントリザルト社「車両用外部照明関連技術」ランキング2位
 ・2021年  12月、コンセプトカー「EMIRAI xS Drive」を開発
 ・2022年   1月、同コンセプトカー CES出展
 ・2023年   6月、光学シンポジウムで縦長ヘッドライト用光学モジュールを講演

2015年、自動車向け路面ライティングコンセプト Source ; 三菱電機

2018年発表、超小型・高機能LEDヘッドライト用光学モジュール  Source ; 三菱電機

2021年 EMIRAI xs Drive 配光制御デモ   Source ; 三菱電機

 2020年12月にスタンレー電気と業務提携を発表し、以降は両社のコラボレーションによる夜間運転支援システムの開発が進められています。三菱電機のドライバーモニタリングシステムで視線方向を検知し、スタンレー電気の配光可変ヘッドライトで視線方向を明るく照射し、反対側の気付いていないと思われる路上障害物はフラッシングして気付かせる等の機能を共同で開発中です。

 ところで2018年にLEDヘッドライト開発を発表した場に、かつてレーザーTVを開発されていた部長さんが参加されていました。2008年にレーザーTVを世界初で実用化し、2010年に3D対応、2011年にLEDとのハイブリッド仕様などを開発された後、LEDヘッドライトの開発にシフトされていったようです。

2008年 世界初RGBレーザーTV リアプロ方式65インチ  Source ; 三菱電機

 業務提携先のスタンレー電気は、2013年に非販売車両ながら公道走行可能な車両(Sim-Drive)に世界で初めてレーザーヘッドライトを搭載したことで知られ、現在もレーザースキャン光学ユニットを開発中です。三菱電機側もレーザーに精通していると思いますので両社がコラボレーションすることで、LEDヘッドライトを超える何か新しいモノを生み出してくれるのではないかと期待が膨らみます。

レーザースキャンヘッドランプシステム   Source ; スタンレー電気HP

 現時点で、三菱電機がヘッドライトを実用化したとの情報はありませんが、特許では2輪車のヘッドライトの出願が増えているので、まずは2輪車をターゲットにしている可能性が考えられます。

 2010年代にシャープ、パナソニック、三菱電機がヘッドライト開発に着手しましたが、現状は道半ばのようです。非自動車関連企業が参入しようとする場合、既存Tier1との連携が不可欠ですが、Tier1であるライト御三家の経営が順調に見える今、新規参入3社は主導権を握るのは難しいと判断をしているのかも知れません。

 参考にライト御三家の国内特許出願件数を示しますが、やはり多いですね。

 特許出願件数(F21S41/00、2010年1月1日以降公開)
 ・小糸製作所    1627件
 ・スタンレー電気  1218件
 ・市光工業、バレオ  727件

 今後も定期的に3社の動向をウォッチし、情報があれば更新していきます。

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