HIDは私が好きな光源ですが、発光部が動くことで ”配光揺れ” が生じるという弱点がありました
HIDの発光アークは電極間で発生するプラズマであり、高温のプラズマ気体は周囲より軽いので、バナナ形状に湾曲します
発光アークはカーブで発生する横Gに対して逆方向に湾曲し、凸凹道では上下振動に対して逆位相で上下に揺れ動く為、配光全体も最大で0.5°程度、揺れ動いてしまいます
この現象はHID特有で、ハロゲンやLEDが原因で配光が揺れることはありません
HIDの発光アーク 長さ4.2mm
HIDの配光が揺れ動く時、車体と身体にも振動や加速Gが加わるため、多少の配光揺れ(0.2°~0.5°)が生じても気付く人は殆どいませんが、その僅かな揺れに気付く人がいます
それはトラックドライバーとレーシングドライバーで、職業ドライバーと言われる方々です
大型トラックのドライバーは夜間走行時間が長いという事もありますが、アイポイントが高いので路面上の配光揺れが目立ち、気付いてしまうようです
ただ、”ヘッドライトがしっかり固定されていない” と思われるようで、クレームはライトの ”取り付け不良” としてカウントされているようです
HID発光アークと配光の ”揺れ”
レーシングドライバーの場合は、トラックのケースとは逆にアイポイントが低い為、配光揺れに気付き難いハズですが、4G超の前後左右の強烈な加減速Gと、卓越した動態視力で配光揺れに気付いてしまうようです
以下は2011年にレーシングマシンで初めてLEDヘッドライトを搭載した「Audi R18 TDI」のドライバーのコメントです
“The light is stronger and vibrates less than a normal headlight – this is a clear advantage and particularly at Le Mans, a track that has many dark braking points in the night.”
「通常のヘッドライトよりも光が強く振動が少ない。これは明らかな利点であり、特に夜間に暗いブレーキングポイントが多いサーキットであるル・マンでは顕著だ。」
Source ; Audi media center
Source ; Audi media center
夜間300km/h超で運転されるル・マン レーサーの言葉には重みがあります。配光が揺れないというのは当たり前のことのようですが、レースでは安定した視界を確保し、長時間運転されるトラックドライバーの安心快適に貢献しています
余談ですが、R18 TDIのLEDヘッドライトを最初に知った時「レーシングカーにLEDヘッドライトは重すぎないのか?」と疑問を抱きました
なぜなら2011年当時、LEDヘッドライトは明るさ不足と放熱部材の重量増で苦労し、重量は片側3~4kgに達するのが普通で、とてもレーシングカーに搭載できる代物と思えなかったからです
ところが実際のライトは大変軽量に作られており、ライトボディはFRP製、LED冷却は走行風を使いヒートシンクを廃止するなど、巨大なサイズにも関わらず重量は1kg程度だったようです
”レースで技術は鍛えられる” という言葉がありますが、ヘッドライトも ”レースで鍛えられる” ということを知りました