尾灯の光源は19世紀のロウソクやランタンから始まり、20世紀の電球を経て、21世紀の現在はLEDが主流になっています
前照灯の光源が電球からハロゲン、HID、LED、レーザーへと進化したことに比べると、尾灯の光源はバリエーションが少ないように感じますが、実は様々な光源が実用化されています。有機ELやレーザー等に加え、一時期はネオン管が使用されていました

ネオン管の発光イメージ
ネオン管とは
ネオン管の歴史は古く、1910年にフランス人の科学者 ジョルジュ・クロード氏が発明し、日本では1918年に東京銀座の谷沢カバン店が点灯させたのが初と言われています。1926年に東京電気(現:東芝)が日比谷の納涼大会に国産第一号を出品後、瞬く間に普及し、1930年代には日本中の繁華街がネオンの光に包まれました

銀座カフェー 1930年代

大阪 戒橋 1937年
ネオン管の発光原理はガラス管に低圧封入されたネオンガスのグロー放電です。電極間に交流電圧を印加するとガラス管全体が赤色に均一発光します。ガラス管を曲げることで文字や絵などの任意の造形を発光させることができます

ネオン管、中央ガラス管が発光部
ネオン管の消費電力は電球の約半分、点灯時間は1ミリ秒、寿命は10,000時間を超えるなど性能面はLEDと比較しても遜色ありませんが、弱点はインバーターのコストと電磁ノイズの抑制でした
ネオン管のハイマウントストップランプ
1994年10月、FORD Explorerがハイマウントストップランプに世界で初めてネオン管を採用しました。製造メーカーはオスラム・シルバニア社で幅が約50cm、直径5㎜のガラス管を発光させました



1995年式 FORD Explorer、ネオン管HMSL
1997年11月、三菱自動車はRVRとシャリオのハイマウントストップランプにネオン管を採用しました。しかしネオン管の電磁ノイズがAMラジオのノイズになる等の問題があり、これを根本的に対策することは難しかったようです。日本車にネオン管が採用されたのは当該車種のみでした

三菱自動車 RVR ネオン管HMSL
海外ではその後も一部車種にネオン管が採用されたものの、やがてLEDの性能向上と価格低下が進み、カーメーカーの関心はLEDに移っていきます

https://www.youtube.com/watch?v=JWvUXrqQ_AU
1998年4月、GMC ENVOY ネオン管HMSL

https://carsandbids.com/auctions/3gow7ow8/2001-bmw-330ci-convertible

2000年6月 BMW 3erコンバーチブル ネオン管HMSL
ネオン管のリアランプ、ターンランプ等
1997年3月、FORD Lincoln mark Ⅷ はリアランプ中央ガーニッシュにネオン管を搭載しました



FORD Lincoln MarkⅧ、ネオン管リアガーニッシュ
2000年1月に登場したBMW Z8は、ネオン管ライトを多数使用したクルマとして知られています。テールライトの他に、アンバー色のネオン管をフロントターン、サイドマーカーに使用しています

BMW Z8


上:テールライト 下:テールライト拡大
The BMW Z8 is the only car that ever came from the factory with neon tail lights.

フロントターン、アンバー色

サイドマーカー、アンバー色
Did you know the BMW Z8 has NEON lights?
まとめ
ネオン管は歴史が古く、既にネオンサイン等に幅広く使われていたことから、ネオン管自体のコストは比較的安価に調達することができました。専用の点灯回路(インバーター)によりコスト高になる弱点はあったものの、ガラス管全体が均一発光し、省エネで寿命も数万時間と長く、LEDと共に次世代光源として有力視されていました
しかし数百~数千ボルトの交流駆動により発生する電磁ノイズが、自車や後続車へのラジオノイズとして悪影響を及ぼしました。市場投入された製品は灯体をアースし、ネオン管の前面を金属メッシュで覆うなどの対策を施しましたが、電磁ノイズの完全な除去は難しかったようです

ノイズ対策の特許出願例: 灯体(21)内部の導電コート(21a)、アーシング(21b)
ネオン管には高電圧駆動による感電や発火等の潜在リスクもあります。アーシング、難燃材使用、周辺部品との距離確保によるリーク防止等を施しても、不安や懸念を完全に払拭することは容易ではありません
片やLEDは、数ボルトの低電圧直流駆動で感電や発火の不安が少なく、万一が起こり難いという安心感があります。LEDの性能向上と低価格化が着実に進んだことから、ネオン管の出番は無くなってしまいました
現代の尾灯用光源はLEDが殆どですが、欧州や中国の一部高級車には有機ELが搭載されています。2024年のBMW M4CSLには赤色レーザーが初めて搭載されるなど、新光源を開拓する動きは止まっていません。ただ、いすれもオプション価格が数十万円と極めて高価で、大衆車に普及する道筋はまだ見えていないようです
ネオン管は電磁ノイズの問題をクリアできずに消えていきましたが、今の技術力であれば解決できるかも知れません。確たる根拠はありませんがリークや発火の不安も解消できるかも知れません。導光体を使わずに一文字発光が可能なネオン管の可能性を、もう一度探ってみるというのも面白そうに思います