LEDヘッドライトは明るく感じるが、モノが良く見えるとは限らない

視覚特性

 1990年代後半から2010年代半ばにかけて、HIDヘッドライトは高級車や上位グレードの差別化アイテムとして定着し、国内の搭載率は20%以上に達しました。初めてHIDヘッドライトを見た人は「明るい!」「蛍光灯のように白い!」と感動したのではないでしょうか。ハロゲンヘッドライトの光量は300~500ルーメン程度でしたので、1000ルーメン級のHIDヘッドライトは、圧倒的な明るさと白色光で、”分かり易い嬉しさ” がありました。

2003年 ゼロクラウン HIDヘッドライト        Source ; トヨタ

 2010年以降はLEDヘッドライトが広まり、2020年頃にHIDヘッドライトは姿を消します。途中HIDとLEDが混在していた時に「HIDとLEDはどちらが良いのか?」という議論が盛り上がりました。LEDの明るさについて「HIDと同じくらい明るい」という人と、「暗い」という人に分かれたように思います。LEDヘッドライトをオプション装着するか、ハロゲンを選んで後付けHIDに交換しようか悩んでいた人は、判断に迷われたのではないでしょうか。

2009年 インサイトZE2型 HID      2009年 プリウスZVW30 LED
Source ; ホンダ、トヨタ

 2000年代半ば、LEDヘッドライトの開発初期段階ではHID同等以上の明るさを目指していたものの、HIDの明るさを超えることは難しいかも知れないという慎重な意見がありました。

 当時LEDは驚くほど高額であった為、明るさ以外でHIDを超える商品価値を見いだす必要があり、 ”色” に着目しHIDの昼白色(4300K付近)から更に青方向の昼光色(5500K付近)に近づけることになります。そして見た目の変化に加え、実際の視覚特性でも何か良い影響がないか検証する動きが盛んになります。

色温度の比較           Source ; 電球工業会

 国内外の自動車メーカーやライトメーカー、大学等で研究が行われ、その結果が学会等で報告されました。それをまとめると「LEDの昼光色は、HIDの昼白色やハロゲンの電球色より、1.1倍~1.6倍ほど明るく感じる」になります。実験環境や光源種類、明るさレベル等で結果は異なりますが色温度が高いと明るく感じるという傾向は共通しています。

 論文の具体例をあげると、横浜国立大学と小糸製作所の論文 ではLEDはHID比1.3倍、ハロゲン比1.5倍の明るさを感じます。800ルーメンのLEDヘッドライトは1000ルーメンのHIDヘッドライトを明るさ感で上回ることになります。

 一方で ”明るい” と ”見える” は同義ではありません。LEDとハロゲンを用いて、遠方路上障害物を目視発見する最低照度を調べた研究では、LEDはハロゲンに対して1.3倍の照度を必要とする、という結果が示されています。”明るさ感” の結果とは逆の結果で、色温度の低いハロゲンの方が ”良く見える” ということになります。

 少し混乱しますがパナソニック資料を参照すると、色順応と演色性を加味して考察する必要性を感じます。色順応とは色みのついた白色光を見続けるとやがて色みの無い白色光にしか見えなくなる現象を言い、色みによる明るさ感の増減効果は消失します。実際の運転環境では色順応が働くので、ライトの色みによる明るさ感の違いは実験結果と異なっている可能性があります。

 演色性については物体色が正しく発色しているかを検証する指標で、ハロゲンはLEDよりも演色性が高く、路上障害物の色情報から早期目視発見につながっている可能性が考えられます。

 ”明るさ感” 、 ”見易さ” について考察しましたが、実際は多くの要素が複雑に絡み合い、簡単に光源の優劣をつけることはできません。色順応以外にも ”明順応” 、 ”暗順応” の考察や路上障害物を見る時は ”中心視” 、左右の飛び出しに気付くには ”周辺視” で検証をしなければなりませんし、走行中の ”視野狭窄” やグレアによる”瞳孔径変化” 、”疲労” との関係も考慮する必要があります。

 色々と書きましたが、発光スペクトルが異なるLED、HID、ハロゲンの間で視覚特性に差が出るのは当然であり、消費電力、寿命、デザイン性などを考慮.した総合的な商品性ではLEDの優位が際立っています。今後はLEDの弱点である発光スペクトルの改良が進むと思うので、近い将来、高演色LEDによる夜間前方視界の比較評価レポートが出てくることを期待したいと思います。

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