ホンダ 「ジュエルアイLEDヘッドライト」のRXIは今でも最高レベルの光学技術

 2022年1月31日にホンダはレジェンドの販売を終了しました。1985年11月の販売開始以降、ホンダのフラッグシップとして数多くの先進技術を搭載し、ヘッドライトにも最高峰の技術が投入されてきました。その最後の10年を飾った技術が ”ジュエルアイLEDヘッドライト” です

Source ; Honda

レジェンド(ACURA RLX)のジュエルアイLEDヘッドライト

 ”ジュエルアイLEDヘッドライト” の特徴は4個以上の小型LED光学ユニットを横一列に並べたデザインで、2013年に北米で販売されたACURA RLXに搭載され、その後ACURAブランド全車種に展開されました。国内ホンダブランドではレジェンドとNSX、2輪車のゴールドウィングに搭載されています 

NSXのジュエルアイLEDヘッドライト

ゴールドウィングのジュエルアイLEDヘッドライト

ACURA TLX のジュエルアイLEDヘッドライト

  ”ジュエルアイLEDヘッドライト” は一般的なプロジェクター光学系を使用しますが、レジェンド(ACURA RLX)はフラッグシップに相応しい高度な光学技術を採用しています。自由曲面プリズムの内部でLED光を2回反射してロービーム配光を形成する技術で、光学系の奥行きは僅か10mmしかありません

 RXI(refraction (R), reflection (X), and total internal reflection (I) 」と呼ばれる光学技術で、日本のスタンレー電気が米国LPI社(後にアップルが買収)から設計ソフトを導入して開発しました。下の絵はLPI社とスペイン・マドリード工科大学の共著論文「TIR RXI collimator」からの引用です

RXI光学素子   Source ; LPI論文「TIR RXI collimator」

 RXIは折り畳み光学系(Folded optics)の1種で、必要な光路長確保と光学ユニットの小型化を両立することができます。スマートグラスやヘッドマウントディスプレイ等に使われることはありますが、設計の難しさと高い形状精度が要求される為、ヘッドライトには難しいとされていました。例えばプリズム表面(光線出射面)の曲面形状は、プリズム内の全反射と屈折の2回に使用される為、通常の光学ソフトでは設計できません。ここでは深堀りしませんが、数値解析で最適形状を探索する方法の他に、幾何光学的に解を求める場合はSMSメソッド(Simultaneous Multiple Surfaces)を用います 

光学系の説明動画 Acura – Jewel Eye™ LED Headlights

 形状精度は一般的なヘッドライト用レンズに対して一桁高い精度が必要です。更に製造時のバラつきに加え、ヘッドライト内部は氷点下から100℃以上に温度が変化する為、熱膨張や熱変形の精度管理が必要になります

 このような高難易度の光学技術は一般にコストが掛かります。ホンダは採用理由について ”ヘッドライトの奥行き短縮と軽量化を狙った” と説明しています。特許庁の意匠登録情報で同時期に発売された別の2車種と比較してみると、確かにレジェンドのヘッドライトは他のヘッドライトと比べて奥行きが短いことが分かります

 レジェンド以降のホンダ車にRXIは採用されていません。おそらくコスト等の問題でフラッグシップ以外の車種への展開が難しかったのでしょう

 当時ホンダはLEDヘッドライトの採用では後発でした。競合他社は2007年にレクサスLS600h、2009年に三菱自動車アイミーブ、同年トヨタプリウス、2010年に日産リーフが採用に踏み切っており、2013年にモデルチェンジを迎えたレジェンドのLEDヘッドライトは、先行する競合他社を見返すだけの先進技術を盛り込む必要がありました。そしてRXIはそれに相応しい技術でした

 現在はN-BOXのLEDヘッドライトが採用した ”ダイレクトプロジェクション” という技術に注目しています。RXIの奥行き低減に対して上下サイズ低減を目指した技術のようですが、RXIの技術要素を組み合わせることが出来れば面白くなりそうです

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