ホンダのフラッグシップ・レジェンドは2022年1月31日に販売終了しましたが、最後の10年間を飾ったのが ”ジュエルアイLEDヘッドライト” です。LEDライトが点灯時と非点灯時ともに宝石のようにキラキラと輝いて見える外観から名づけられました。
レジェンド ジュエルアイLEDヘッドライト Source ; Honda
”ジュエルアイ” の名称を冠したLEDヘッドライトは、レジェンド以外の車種にも搭載されています。北米ACURAブランドでは全車種に展開され、国内ホンダブランドではレジェンドとNSX、2輪ではゴールドウィングです
ネット記事では ”搭載されている” と解説があったグレイスやシビックについてホンダ公式サイトを調べましたが、ジュエルアイの説明を見つけることはできませんでした。おそらくホンダブランドに関しては、全車種に展開されているというわけでは無さそうです。
NSX ジュエルアイLEDヘッドライト source ; Honda
ゴールドウィング ジュエルアイLEDヘッドライト Source;Honda
”ジュエルアイ” は、小型のプロジェクションユニットを4つ以上横に並べます。光学ユニット自体は、従来から使用されているプロジェクター光学系を用います。
ACURA TLX ジュエルアイLEDヘッドライト Source ; Acura
レジェンドに関しては、ホンダのフラッグシップに相応しい高度な光学技術として、奥行き僅か10mmの自由曲面プリズムを使用しています。LEDから出た光をプリズム内部で2回反射してロービーム配光を形成する技術で、RXI光学素子(refraction (R), reflection (X), and total internal reflection (I) 」といいます。米国LPI社(後にアップルが買収)の技術で、レジェンドの ”ジュエルアイ特許” はLPIが保有し、スタンレー電気はLPIから設計ソフトを購入しています。下の絵はLPI社とスペイン・マドリード工科大学の共著論文「TIR RXI collimator」から引用しました。
RXI光学素子 Source ; LPI、TIR RXI collimator
光学系が分かる動画 Acura – Jewel Eye™ LED Headlights
RXI光学素子はスマートグラスやヘッドマウントディスプレイ等で使用され、ヘッドライトに使用されたことはありません。プリズムの表面と裏面は、非回転対称の自由曲面で、表面は全反射と屈折で2回使われる為、通常のシーケンシャル光線トレースでは設計ができません。そこで、SMSメソッド(Simultaneous Multiple Surfaces)と呼ばれる特殊な設計手法を用います。
レジェンドのRXI光学素子は樹脂製の為、熱変形はガラスと比べて大きく、導光体内部の光線も角度ズレが大きくなります。通常の屈折のみの光学プリズムに対して、RXI光学素子は一桁高い寸法精度が必要です。加えて、透明な光学樹脂レンズに反射蒸着を部分的に施すことも簡単では無く、量産後に反射蒸着が剥がれる不具合でリコールとなってしまいました。
では何故、このように難しい光学技術を採用したのでしょうか。ホンダは ”ヘッドライトの奥行き短縮と軽量化を狙った” と説明をしています。特許庁の意匠登録情報から同時期の2車種と比較してみました。左のレジェンド・ヘッドライトは、それ以外のヘッドライトと比べ、奥行きが極めて短いことが分かります。
現在、”ジュエルアイ” のRXI光学素子は、レジェンド以外に使用されていません。何等かの技術的な課題が残っているのか不明ですが、レジェンドを起点として、”ジュエルアイLEDヘッドライト” が現在も続いていることは素晴らしいことと思います。
宝石のような見た目の美しさはそのままに、今後も新しいデザインや機能を追求して欲しいと思います。