20世紀中盤に登場して消えた前照灯自動切替装置

 1950年代から1960年代、対向車の有無を判別してハイビームとロービームを切り替える ”前照灯自動切替装置” が実用化されて世間の注目を集めます

Source ; 1955年 世界の自動車 超高級車 p174

対向車が近づくと自動でロービームに切り替わる

 1952年に米国GUIDE社が初めて実用化した装置は、”光電真空管”、”トランス”、”ブザーリレー” 等を組み合わせて前照灯を切り替えます。1958年に感度調整機構を追加し、1960年には機能を周囲に示す為に、ビームを切替える瞬間に約1秒間、ハイビームとロービームを同時点灯する自動敬礼機能 ”Safety Salute” を追加します

Source ; GM

1952年 オートロニックアイ広告

 米国の最新技術の情報はすぐに日本に入ります。日系メーカーは10社を超える企業が開発に参入、1960年前後に販売が開始され、一部は新車に装着されます

 しかし価格は7,000円前後と高額(当時の大卒初任給 約14,000円)で、対向車の検知精度が安定しなかった為に販売は低迷します。1960年代の後半になると世間の関心は薄れ、1970年代以降は忘れられた存在になります 

 前照灯自動切替装置が再び注目を集めるのは2000年以降、車載カメラで対向車の前照灯や尾灯を精度良く検知できるようになってからです。現在は ”オートハイビーム” の名称で軽自動車にも搭載される標準的な機能になります

 ここでは日本で1960年前後に販売が開始されたものの、短期間で姿を消した幻の製品群を取り上げます

 日本で最初に実用化された前照灯自動切替装置がWINKYです。受光器は車体外部に装着し、内部に半導体フォトエレメントを組み込み、モーターで光を断続受光することで出力信号を交流化、トランスで増幅してリレースイッチを作動します

 性能は感度0.01Lux、対向車検知距離は250m~300m

左から受光部、増幅器、二次リレー 1959年8月 日本交通安全協会 道路交通資料4

 日本初の前照灯自動切替装置への注目度は高く、モーターファン誌1959年4月号に試乗評価と有識者対談が掲載されます。そこでは「性能は概ね良い」「想像以上の成績」との好意的な意見と「人間の意志とは無関係に切り替えてしまう点は1つの問題」との指摘が示されています 

 1958年に運輸省の補助金を受けて前照灯自動切替装置の開発を開始し1959年に開発が完了、1961年に販売を開始します

Source ; 運輸省 1960年 科学技術試験研究補助金による試験研究成果集5-P133

オートアイ、写真は開発完了時の装置外観

 1959年の試験結果では、対向車がハイビーム時200m、ロービーム時50mで検知します

 長期の試作研究を経て実用化したとされるオートデイム。受光部は車室内、車体外部のどちらでも装着可能、感度0.5ルクス、検知距離は対向車ハイビーム時300m、ロービーム時100~170m、価格や販売実績等は不明

Source ; 1960年5月 月刊自動車 自動車の上手な使い方 広告欄

オートデイム・外観

 いすゞと松下電器が共同開発し、ヒルマンミンクス・ハイスタイルに国内初のOEM標準装備品として採用されます。後付けキットとしても販売され価格は6,950円(取付費除く、1965年時点)

Source ; 1961年 いすゞ技報35号 P27

左: ヒルマンミンクス搭載装置の受光器(フォグの左下)   右:受光部寸法    

Source ; 自動車ガイドブック1965-1966 広告欄 National ビームアイ

ビームアイ、ナショナルブランドで販売

 受光器は車体外部取り付け。感度0.01~0.5ルクス、検知距離は対向車ハイビーム時300m、ロービーム時100m、価格6,670円、販売実績等は不明

 小糸製作所の子会社 ”小糸電機” による前照灯自動切替装置がセーフティアイです。小糸電機は1962年1月に親会社の小糸製作所に吸収合併され、以降は小糸製作所ブランドで販売されます

SOURCE ; 1962年 月刊自動車工業・広告

 硫化カドミウムの受光器は、車室内置きで感度0.05~0.3ルクス、検知距離250m~300m、販売価格7,000円です。翌1962年に販売価格は6,300円へ値下げします

 1963年に東洋工業(現マツダ)キャロルにオプションとして採用されます

 対向車前照灯の明暗によらず均等距離で作動する特殊なトランジスター増幅方式を採用。対向車前照灯にのみ作動し、他の散乱光には反応しない独特のセレクト方式。価格や販売実績等は不明

 検知距離は対向車ハイビーム時800m、ロービーム時200mに達し、当時の前照灯自動切替装置の中では最長。受光部は車室内置き、感度0.01~0.4ルクス、価格9,000円、販売実績等は不明

 受光器はダッシュボード等の車室内置き、感度0.1ルクス、対向車検知距離200m、価格や販売実績等は不明

Source ;  1961-62 自動車ガイドブックVOL8・広告

 中央エレクトロン工業という会社が架空の前照灯自動切替装置の開発を喧伝し、投資家に株式を高値で販売した詐欺事件。前照灯自動切替装置に対する関心の高さを悪用した事例です

<事件概要> 
 中央エレクトロンは前照灯自動切替装置 ”アイリット” の特許を取得後、”ニューアイリット” の開発を開始。「殆どの自動車メーカーから大量発注を受けた画期的製品」と宣伝し、証券ブローカーは該社を「株式上場間近」「第2のソニー」と持ち上げ、投資家に株式を販売

 全国の投資家850人から総額1億4800万円を集めた後、開発の実態が無いことが判明。株式分譲の詐欺事件として警察が捜査を開始し主犯者が逮捕されます

参照 ; 日本秘密情報・ニッポン・スキャンダル P185-P186
参照 ; 投資家の法律・一千万人投資家の必携書 P84-P85
参照;実業の世界60・幽霊会社「世界電子のカラクリとそろばん」P109

  ”前照灯自動切替装置” には、ハイビームとロービームを切り替える以外に、停車や発進時にパーキングランプとロービームを自動で切り替えるタイプが存在します。名称は似ていますが中身は別モノです

Source ; 海外貿易情報 1965年12月 P18
Source ; 日立評論 1964年1月
Source ; モーターファン 1963年5月

左:ライトコントローラー        日興電機工業
中:ライトオペレーター          日立製作所
右:光電式自動車停止時前照灯自動切換装置 小糸製作所

 ハイビームとロービームを切り替える前照灯自動切替装置と併用が可能で、小糸製作所は先に発売したセーフティアイとの併用を勧めています

 米国で実用化された前照灯自動切替装置は、当時のエレクトロニクスブームに乗じた ”話題の先進電子デバイス” でした。日系メーカーが一斉に開発に走り出す中、米国では販売が伸び悩んでいるという情報もあり、商品性の懸念は当時から指摘されていました

<コメントの例>
 ・対向車をロービームに切り替えさせる機能では無いので、売れ行きは難しい
 ・安定した性能を安価に提供する必要がある
 ・果たして将来この装置はどのように進むであろうか

 結局、前照灯自動切替装置の売れ行きは低調で、現存装置も希少であることから販売総数はかなり少なかったようです。1970年代以降は忘れ去られた存在となり、前照灯自動切替装置のビジネスは一旦、終わりを迎えます

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