1950年代から1960年代にかけて、当時としては画期的な ”前照灯自動切替装置” が登場します。対向車が近づくとハイビームを自動でロービームに切り替えてくれる為、漫然とハイビームのまま走行するクルマを減らし、面倒なスイッチ操作から解放されると期待されました
対向車が近づくと自動でロービームに切り替える
<主要な構成部品>
受光器:光電真空管、フォトトランジスタ、Cds光導電セル 等
増幅器:変圧器、トランジスタ 等
切替器:バイブレータ、リレー 等
<作動原理>
光に対して受光器の内部電流が変化し、その電流を増幅器で増大し、切替器で前照灯を切り替える
1952年に米国GUIDE社が実用化して以降、日本においても10社を超える企業が開発を進め、1960年頃から市場投入が始まります。ところが対向車以外の光に反応したり、対向車がロービームの場合は反応が遅くなり、前走車テールライトには反応しない等の問題があり販売が低迷、1970年代以降は忘れられた存在になります
前照灯自動切替装置が再び注目を集めるのは2000年以降になってからです。車載カメラで対向車ヘッドライトや前走車テールライトを精度良く認識できるようになり、使い勝手が大きく改善されました。現在は ”オートハイビーム” の名称で軽自動車にも搭載される標準的な機能になりました
ここではオートハイビームの前身となる、1950年代~1960年代に開発された製品群にフォーカスします
1952年 オートロニック・アイ、GUIDE社
米国GUIDE社による世界初の前照灯自動切替装置です。キャディラックやオールズモービルへのオプション装着を皮切りに、複数の高級車ブランドにオプション設定されました。オールズモービルでは新車購入者の3割がオートロニックアイのオプションを選択しました
1958年の改良では、雨や霧の悪天候時や市街地の明るい環境などの様々な交通シーンに対応できるよう受光感度が調整可能になります
1960年に名称を ”GUIDE Matic” に変更し、装置が作動していることを示す為、ビームを切替える瞬間に約1秒間、ハイビームとロービームを同時点灯する自動敬礼機能 ”Safety Salute” を追加しています
1959年 WINKY、東邦電化興業
キャッチコピーは「夜間時の眩惑による事故は解消されました」。性能は感度0.01Lux、対向車検知距離300m。価格や販売実績等は不明
左から受光部、増幅器、二次リレー
Source ; 1959年8月 日本交通安全協会 道路交通資料4・広告欄
1959年 オートアイ、スタンレー電気
1958年から運輸省の補助金を受け、1959年に前照灯自動切替装置の開発が完了。走行試験では対向車がハイビーム時200m、ロービーム時50mでの検知に成功。価格や販売実績等は不明
1961年 セーフティアイ、小糸電機(小糸製作所)
販売価格7,000円、翌1962年に6,300円に値下げ(当時シールドビーム700円、大卒初任給14,000円)、1963年に東洋工業(現マツダ)キャロルがオプション装備として採用
1961年 ビームアイ、松下電器
いすゞと松下電器が共同開発し、ヒルマンミンクス・ハイスタイルに国内初の標準装備として採用。後付けキットの販売価格6,950円(取付費除く、1965年時点)
左: ヒルマンミンクスの受光器(フォグ左側) 右:受光部寸法
ナショナルブランドで販売されたビーム・アイ
1961年 ヘッドランプ自動切替装置、市川製作所
価格や販売実績等は不明。市川製作所は1968年に白光舎と合併、社名を市光工業に変更
1962年 アイリット、中央エレクトロン
価格や販売実績等は不明。実態は前照灯自動切替装置への期待を悪用した投資詐欺
<概要>
中央エレクトロン社は、高砂電研社の前照灯自動切替装置 ”アイリット” の特許を取得後、”アイリット” が未完成にも関わらず「日本の全ての自動車に装着する」と宣伝し、1億4800万円を集めます。ところが開発の実態が無かったことで警察が介入し、全国の投資家850人が被害を受けた詐欺事件になります
引用 ; 日本秘密情報・ニッポン・スキャンダル P185-P186
引用 ; 投資家の法律・一千万人投資家の必携書 P84-P85
まとめ
米国で先行していた前照灯自動切替装置が一定の成功を収めたので、当初、日系メーカーの期待度は相当に高かったようです。しかし商品性を懸念する声は当時から散見されていました
<懸念コメント・抜粋>
・対向車をロービームに切り替えさせる機能では無いので、売れ行きは難しいと思う
・安定した性能を安価に提供できれば、実用価値はあるかも知れない
結果、前照灯自動切替装置の売れ行きは低調で、現存する装置も見当たらないことから販売総数はかなり少なかったようです。1970年代以降は話題にも上らなくなり、前照灯自動切替装置のビジネスは終わりを迎えることになります